[感想] 教育×破壊的イノベーション クレイトン・クリステンセン

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教育×破壊的イノベーション 教育現場を抜本的に変革する
教育×破壊的イノベーション 教育現場を抜本的に変革する クレイトン・クリステンセン マイケル・ホーン カーティス・ジョンソン 櫻井 祐子

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Disrupting Class, Expanded Edition: How Disruptive Innovation Will Change the Way the World Learns
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イノベーションのジレンマのクレイトン・クリステンセンの教育に関する本。
原書のタイトルは Disrupting Class で、これまでのイノベーション理論を教育分野に応用してみたものだ。

1人ひとりの子供によって、適した教え方はちがう。昔はアメリカでも日本でも、子供達は同じ場所に集まってもばらばらな進度で学習しており、先生はその子供達ひとりひとりに適した対応をするようにしていた。
これは、教える対象が限られているうちは可能な教育法だろう。
しかしより多くの子供に教育を受けさせるために、大教室で一斉に同じ教え方で授業を行うようになった。
これにより教育を受けられる人は飛躍的に増えたが、その教え方にあわない子供達は落ちこぼれるようになった。


では、各個人に適した教え方とはなんだろうか。
第1章で紹介されている、多元的知能を提唱した心理学者ハワード・ガードナーの8つの知能とは下記の通り。

  • 言語的知能: 言葉で考え、言語を使って複雑な意味を表現する能力。詩人、随筆家
  • 論理・数学的知能: 計算や数値化を行い、定理や仮定を考察し、複雑な数学的操作を行う能力。アルバート・アインシュタイン
  • 空間的知能: 三次元で考え、内的・外的イメージを認識し、さまざまなイメージを再現、変換、修正し、自らまたはものを使って空間を孝行し、図形情報を生み出す、または解読する能力。フランク・ロイド・ライト
  • 運動感覚的知能 物体を操作し、身体的能力を微調整する能力。マイケル・ジョーダン
  • 音楽的知能: 調子や和声、音律、音色を聞き分け、生み出す能力。音楽家。
  • 対人的知能:他者を理解し、人間関係を巧みに築く能力。マザー・テレサ
  • 内省的知能: 正確な自己認識を確立し、その認識を基に自分の人生を計画し、方向づける能力。フロイト。
  • 博物学的能力: 自然におけるパターンを観察し、観察対象を特定、分類して、自然体系や人工の体系を理解する能力。

そして彼の研究によると、ほとんどの人が8つの能力を少しずつ持っているが、優れているのは2つか3つとのこと。
なので、同じことを学習する場合でも、適した教え方は異なるという主張がこの本のベースになっている。

この8つで知能が分類できているかは個人的には微妙だと思えるが、しかし人によって得意な知能が異なるというのは納得できるところだ。
以前読んだ 「伝わる英語」習得術 理系の巨匠に学ぶ で養老さんが言っていた、理系的能力が高い人は文型的能力(この場合は英語)が苦手、という主張にも通じるものがある。

では、生徒それぞれに適した教育を与えるにはどうすれば良いか? という疑問に対して、著者は今まで教育を受けることができなかった「無消費」の層に、コンピュータを使って破壊的に教育を提供することを提唱している。
全員義務教育なのに、「無消費」がどこにあるのか? と思ってしまうが、例えば教室でアラビア語の授業を受けたいと思っても、需要が少なすぎて提供することができないし、また教えられる人も限られている。
しかし、州全体を見れば受ける人はいるので、アラビア語の授業を提供することができる。

また、同じことを教えるのにもただ口頭で説明しても優れた論理・数学的知能を使って理解できる人もいるし、実際に実験してみることで空間的知能を使って深く理解できる人もいる。
これに対しても、コンピュータを使ってオンラインで複数の授業から適したものを受けることで、各人に適した教育を提供できると思われる。
しかし、今までの学校教育とはまったく相容れないため、従来の学校でなく、例えば私立の学校などで破壊的に(従来のやり方と併存するのではなく)導入することを著者は推奨している。
結論の章で、著者は未来の学校の姿を小説的に描写しているが、そこでは各生徒は登校後に自分の端末に行き、自分に合った授業を自分の好みで受けるようになっている。また、教材自体も自分で好みに合ったものを探してくることになっている。

昔は教育を受けるためには学校に行くしかなかったが、たしかに今は教材は世の中にあふれており、また昨今の様子を見ているとデジタル教材はものすごい勢いで増えているので、このようなやり方で独学で学習することもできるのではないか、と思えた。
その場合の教師の役割は、

  • 生徒の知能タイプを見きわめる
  • 適切な教材を探し出して紹介する
  • 現在適切なものがなければ、自分で作り出す or 仕様を定義して適切なものを作ってもらう

になるのではないだろうか?
実際、自分の子供に教える場合にも、教科書通りではない方法、例えば紙とはさみを使ったり、例えばタブレットのアプリを使ったりすることであっさりと理解してもらえる場面に遭遇する。
自分は家庭教師、専門学校講師、中学校の教師(大学の教職取得の一環)を体験しているが、生徒に理解してもらえない場合にはどうすればよいか、頭をひねるのが好きだった。
この方法がだめだったら、ではこの方法はどうか? これではどうか? とアイデアを出すのが好きだった。そういう人に教師になってもらいたいと以前から思っていたが、今はさらに工夫のしがいがある時代になっていると思う。

この本を読んで、アメリカで導入が始まっているという「反転授業」を思い出したが、もし反転授業で提供される授業が1種類ではなく、同じ内容を複数の方法で教えてくれるもので、その中から適したものを選択できるのであれば、著者の主張に近いものになると考えられる。
「反転授業」とは何か? 成績が大幅にアップとの報告も【争点:教育】


ただ、上の記事にも書かれているが反転授業は家庭の負担が大きくなる。自分の子供を見ていても、とても家で授業を受けられるような余裕はない。
反転授業も本格的に導入するのであれば既存の学校に導入するよりは、破壊的に導入した方がうまくいきそうに思える。そして、導入する先は、今うまく授業が受けられていない、無消費の層がよいのではないだろうか。

著者の勧める方法を破壊的に導入する場合、

  • 生徒の知能タイプを見きわめる
  • 適切な教材を探し出して紹介する
  • 現在適切なものがなければ、自分で作り出す or 仕様を定義して適切なものを作ってもらう

という能力を持った教師を育てる必要があると思われるが、今はこのような人を育成する学校や教室はないように思われる。
この教師は実際には自分では授業を行わないので、教師とは別な名称を用意した方が良いのかも知れない。

そして、作り出した教材は万国で使えるような優れたものであれば多国語版を用意し、全世界的に共有することができるとよさそうだ。
今でも教材を共有するネットワークは複数立ち上がっていると聞いているし、そこから収入を得ることができている人もいるらしいので、そういう世界は少しずつ近づいていると思われる。
そして、2014年にはベネッセなど既存の大手はもちろん、DeNAやベンチャーなど新規参入業者も多くデジタルを使った教育分野に進出するようだ。
これからしばらくは教育分野でいろいろなことがおきそうなので注視していきたい。

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